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2006/4/13

背景
大型ディスプレイやプロジェクタなど高価なAVシステムも、正しく調整されていなければ、その真価を発揮できません。また最近はビデオ録画はデジタルキチャプチャが一般的になってきましたが、ソースの多くはアナログ信号ですから、正確に記録するためには入力の調整が必要です。デジタル記録の場合、記録時に失われた情報(白飛びや黒つぶれ)は2度と回復できません。そのためには基準となる正確なテスト信号を使用して校正を行うことが必要です。

このような信号を生成する機器は基準信号発生器あるいはテストパターンジェネレータ等と呼ばれていますが、高性能なものは大変高価でとてもアマチュアが購入できる金額ではありません。(これらはスタジオやプロダクション用の機器です)。またアマチュア用として、組み立てキットや安価な製品も存在しますが、組み立ての手間や信号の精度の問題、信号種類が少ない等の理由により、購入をためらう方も多いと思います。

そんな方のために、高精度の映像信号を、DVDビデオとして収録しました。お手持ちのDVDプレーヤーで再生することにより、DVDプレーヤーのチェックを行えるだけでなく、高精度のテスト信号源として、モニタ、ディスプレイ、録画、録音機器の調整に使用できます。(DVDプレーヤーの性能と、DVDフォーマットの制限により、専用機器より多少信号品位が劣りますが、十分に実用的です→信号品位について

構成
映像

映像信号は基本的に長さ60秒のMPEG-2、MP@ML形式になっています。DVDは静止画(ビットマップ)も記録できるようになっていますが、以下の理由によりムービーファイルにしています。

  1. 一部に動画のものもがあり、静止画でもディザがかかっているものがある。
  2. 静止画(ビットマップ)の場合、カラースペースがRGBになる。(オーサリングソフトによる?)
  3. 画像品位がコントロールできない。(オーサリングソフト任せになる)

音声

オーディオセクションについては16/24bit、48KHzのリニアPCMで記録されています。フレームカウンタについては、ディスク容量を考慮してMPEGオーディオで時報音が記録されています。その他については16bit、48KHzのリニアPCMですが、無音です。
DVDの場合一般的に(平均)録音レベルが低くなっているので、突然大音量がならないように、最大でも-10dbにレベルを抑えてあります。

メニュー

メニューは2階層でタイトルメニュー(トップメニュー)でカテゴリーを選択し、次に表示されるメニュー(DVDメニュー)で信号を選択すると映像が出力されます。メニューに戻るにはタイトルメニューボタン、DVDメニューボタンを押します。

DVDでは独立したビデオは最大99個までしか持てません。本ディスクでは300以上の信号が収録されていますので、1つ1つを独立したビデオにはできません。そのため個々の信号はチャプター分割されています。メニューで信号を選択して60秒立つと次の信号が表示されます。長時間同じ信号を出力したい場合は静止画の場合はポーズ、それ以外の場合はA⇔Bリピートを使用してください。なおオーディオとフレームカウンタは独立したビデオでリピートする設定になっています。

作成手順
本ディスクは以下の手順で作成されています。
  1. 計算によりD1(720×480)のYUVフレームデータ(倍精度)を生成し水平フィルタリングを施す。
  2. 上記データを元にCCIR601準拠のAVIファイルを生成。(量子化の際必要に応じてランダムディザを付加する)
  3. 上記AVIファイルをMPEG-2形式にエンコード。
  4. 上記MPEG-2ファイルと別途計算で生成したWAVファイル(16/24bit、48KHz、リニアPCM)とメニューをオーサリングしてDVDビデオ化

信号品位について
信号精度については、安価な専用機器と比較してもやはり多少劣ります。その要因として、DVDの規格によるものと、実装上の要因によるものが存在します。

規格上の制約

画像の解像度はD1(720×480)で、これはNTSCビデオと互換性があります。サンプリング周波数は13.5MHz(輝度)ですから、帯域はナイキスト周波数の80%として、13.5×0.5×0.8=5.4MHzとなり、NTSC信号には十分な帯域を持っています。ただDVDではYUV4:2:0という方式を採用していますので、色差(色情報)については縦横それぞれ1/2に間引いて記録されています。このうち横については1/2に間引いてもなお、NTSCの色帯域(1.5MHz)を大きく上回っているので問題ありませんが、縦方向にも間引いているため、復元の際フィルタリングにより、縦方向に色のにじみが発生します。例えば、垂直カラーバーの色の境目に中間色が現れます。

量子化ビット数についてはDVDではYUV各8bit(0%〜100%までは約7.8bit)で記録されています(*)。シグナルジェネレータの場合は少なくとも10bit(同期信号と余裕部分を除くと実質9bit)とおもわれます。この場合、自然画で比較すると同等以上と思われますが、テスト信号の場合、輝度、色差別々に評価する必要がありますので、やや劣ることになります。

(*)実際にDVDに記録されているのはYUVデータではなく、DCT係数です。DCT係数のうちDC成分を表す係数は10bitの精度で記録されいますが、当ディスクでは8bit精度のAVIファイルをエンコードしていますので、情報の欠落なしにDCT変換できた場合でも精度は8bitになります。

DVDで採用されているMPEG-2はDCT(離散コサイン変換)という方法で目につき難い細かい部分の情報を省略することによって、情報の不可逆圧縮を行っています。これにより自然画の動画などではかなりの情報の劣化が生じます。ただしテスト信号のような静止画で、かつ平坦な部分が多い画像では、その影響はゼロといわないまでも、かなり少なくなります。

実装上の問題(プレーヤの画質の問題)

DVDプレーヤはアナログチューナーやアナログビデオに比べると、非常に良質な信号を出力しますが、やはり機種による画質の差は存在します。これは使用している回路や部品の違いに由来します。

DVDプレーヤの出力部分は大まかに言うと、MPEGデコーダ→デジタル補間フィルタ→(D/A変換→アナログフィルタ→NTSCエンコーダ)/(デジタルNTSCエンコーダ→D/A変換→アナログフィルタ) という構成です。この中で信号品位にもっとも影響があるのはデジタル補間フィルタです。補間倍率はカタログにも表示されていますが(*)、フィルタのタップ数(ウィンドウ幅)はあまり書かれていないようです。自然画の場合はタップ数を増やしても、画質にあまり差がないため5タップ(補間前で)程度のものが多いようですが、テスト信号の場合はタップ数が多いほど信号品位がよくなります。
(*)倍率が表示されていなくても例えば「108MHzDAC採用」と書いてあれば108/13.5=8倍 ということがわかります。プログレッシブ再生で倍速で読み出すことを考慮すれば108/13.5/2=4倍になります。

アナログフィルタについては、補間なしの場合は非常に重要で、コストも高く調整も難しいですが、補間倍率が高い場合は簡略なものでも問題ありません。

D/A変換については補間フィルタのbit数に応じたものであれば問題ないと思われます。

NTSCエンコーダについては、本来のNTSC規格に含まれる、各種帯域制限については、実装していないものがほとんどだと思われます。NTSC規格はAM変調して伝送するため、チャンネル間/音声信号との干渉を防止する必要があるのに対して、民生用プレーヤの出力はその必要はありません。そのため輝度、クロマとも本来のNTSC規格より広帯域になっています。

信号レベル/オフセットについては校正を行ってあればよいのですが、コスト面から安価な機器では省略されていると思われます。この場合、主としてD/A変換器のリファレンス電圧の精度に左右されることになります。

手持ちのDVDプレーヤのいくつかを本ディスクを使用してチェックしてみました→測定例

メリット
専用機器(シグナルジェネレータ)に大して有利な点も存在します。

まず、当然ながらDVDプレーヤのチェック、調整に使用できます。昔で言うテストテープと同じ様にプレーヤの校正を行う際の基準信号として使用できます。これはシグナルジェネレータでは行えません。

次に、信号源として使用する場合の利点として、第一に手軽に使えるという点があります。DVDビデオはSD解像度ではあるものの、現在のところ映像ソースとして主流の位置にあります。AVを趣味にしている人ならば、必ずDVDプレーヤを所有していると思われます。またモニタやセレクタ等との機器ともすでに接続済みでしょうから、セッティングの必要もありません。

第二は多様な出力方式に対応できることです。映像信号の方式にはコンポジットビデオ、コンポーネント、RGB、DVI、HDMI等、各種ありますがプレーヤの実装しだいでいずれにも対応できます。(例えばD端子入力の液晶テレビを使用している人は、D端子出力のあるDVDプレーヤを持っていると思われます。)
またD3以上の解像度の場合も、プレーヤまたはディスプレイ側でリスケーリングが行われますので、その解像度でチェックできます。この場合元はSD解像度ですから完全なスケーリングは不可能ですが、そのスケーリングの性能のチェックに使用できます。

最後に、これがもっとも重要ですが、専用機器に比べて非常に安価です。

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